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「わ!大変なことになっている!」と、父の声がした。何事かとアトリエから出てみると、父のアトリエの外壁と天井の隙間から、1m近いヘビがぶら下がっている。そこは、少し前からスズメが巣を作り、ここ数日は可愛らしいヒナの声が聞えるようになった箇所だ。ヘビがヒナを狙っているのは明らかだった。

父と父の生徒さんが棒やモップでヘビを攻め、母は2人を応援し、私は少し遠巻きに様子を見ていた。ヘビはアオダイショウだったので、毒もないからさほど怖くはなかったが、捕食せんと必死の様子のヘビが哀れでもあり、気持ち悪くも思えて身体がこわばってしまったのだった。

ヘビは、人間のモップ攻撃に負け、チロチロと恨みがましく舌を見せながら地上に下りて来た。父や母らがヘビを追撃している時、小さなホワホワした丸いものが私の目の前を通りすぎた。スズメのヒナだ!、と分かった私は、ホワホワの消えた草むらに目を凝らした。庭木の下、雑草と落ち葉の中に身を潜めてヒナがいた。

ヒナの身体に小枝が乗っていたので、そっとよけると、その隙にヒナは逃げてしまった。その後、しばらく庭木の下に身体をかがめ、下草をかき分けてみたけれど、ヒナは見つからなかった。
ヒナは小さく、飛べそうもない。さっきの動きは、巣から落ちる力を借りて羽ばたいたにすぎない。餌だって、とても1人ではとれないだろうから、このままでは死んでしまうに決まっている。一部始終を見ていたスズメの親鳥は、必死の声でヒナを探し啼き続けていた。私も気が気ではなくて、30分後くらいに、姿を消した辺りを覗いてみた。

いた!

ヒナは落ち葉に半身隠して、肩から頭をちょこんと出してこちらを見ている。近づいても逃げない。けれど、手を差し伸べると、1mほどササッと逃げてしまう。部屋に戻り、タオルを持って再びヒナのもとへ。そっとタオルをかけて、包んでしまえば捕まえられるのではないかと思ったのだ。
タオルを握りしめてヒナに近づくと、今度は頭を隠してかわいい尾羽を上にして隠れていた。これなら、さっきより怖がらないに違いない。タオルは足下に落とし、息を止めて、両手でヒナを包んだ。

「ピ」とも言わず、ヒナは私の手のひらにおさまった。疲れていたんだろうと思う。ほっとしたのもつかの間、「このヒナをどうしたものか」と思案に暮れる。巣に返したとして、人間が触ってしまったヒナを、もう一度親鳥が世話をするのか心配でしかたがない。
「どうしよう、育てようか」と父に問いかけると、
「野性の鳥は難しいぞ、お前、死んだら泣くからダメだ」と答えが返ってきた。
ヒナをそっと握ったまま、脚立に登り巣の側にヒナを連れていく。ヒナはすっかり開いた私の手のひらの上で
「ボク、ここでも良いですけど?あたたかいですし、つかれましたので」というような顔をして休んでいる。べらぼうに可愛い。
しかし、ここは一時の可愛さに負けてはならない。もっともヒナが幸せなのは、巣に戻り、親鳥が育児を再開してくれることだ。
ヒナの乗った左手を巣に寄せる。それでもじっとしているので「ほら、オウチだよ、オウチ、オウチ」と、右手で少し身体を持ち上げた。ふわっと10cmほど飛んで、ヒナは巣に戻った。

その後、3時間ほど見守っていたけれど、親鳥はよほどヘビが怖かったらしく、巣のほど近くまで飛んでは、ヒナの声を聴きつつも巣には帰らなかった。巣の近くの木や、犬のサークルに止まって様子を伺うばかり。

今夜、どうかあのヘビが、舞い戻ってヒナを襲いませんように。明日には、親鳥がトラウマを乗り越えて、育児を再開してくれますように。手のひらの、ホワホワの感覚を思い出しながら、切に願う今宵である。

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